小さな「内側」を磨き、精密なものづくりを支える

私たちの身の回りには、「静かに回る」「なめらかに動く」「長く使える」ことが当たり前になっている製品が数多くあります。家電やパソコン、自動車、医療機器、ロボット、半導体関連装置など、日々の暮らしや産業を支える製品の多くは、目に見えないところで高い精度に支えられています。

その中でも重要な役割を担っているのが、部品の「内側」、つまり穴の内面です。回転軸が通る穴、ベアリングが収まる穴、部品同士が精密にはまり合う穴。こうした内面の精度が少しでも乱れると、振動や騒音、発熱、摩耗が増え、最終製品の性能や寿命に影響します。

セイコーインスツルの精機部が長年向き合ってきたのは、この「見えない内側」を高精度に仕上げる技術です。内面研削盤は、部品の穴の内側をミクロン単位の精度で削り、製品の性能や信頼性を支える工作機械です。表からは見えにくい技術ですが、ものづくりの品質を内側から支えています。

内面研削盤とは何か

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内面研削盤とは、砥石を高速で回転させ、金属部品などの穴の内側を精密に仕上げる工作機械です。加工対象となる部品を回転させながら、その内側に細い砥石を差し込み、内径の寸法や形状、表面を整えていきます。

求められる精度は、単に「穴の大きさが合っている」だけではありません。円がどれだけ正しく丸いかを示す真円度、穴の中心軸がどれだけ正しくそろっているかを示す同軸度、加工面がどれだけなめらかかを示す面粗さ、筒としてどれだけ真っすぐかを示す円筒度など、複数の精度を同時に満たす必要があります。

内側を削るという工程は、一見するとシンプルに見えるかもしれません。しかし実際には、加工点が部品の奥にあり、使用する砥石や軸は細く、わずかな振れや熱の影響がそのまま加工精度に現れます。特に部品が小さくなり、穴が細く深くなるほど、加工は一層難しくなります。

つまり内面研削盤は、「小さな穴を削る機械」ではなく、振動、熱、位置決め、回転、制御を高い次元でバランスさせる精密な工作機械なのです。

小径・高精度加工に求められる難しさ

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内面研削盤で加工した小径金属部品の例

近年、さまざまな製品で小型化、高性能化、省エネルギー化が進んでいます。製品が小さくなれば、そこに組み込まれる部品も小さくなります。一方で、求められる性能や信頼性はむしろ高まっています。

例えば、小型モーターや精密機構部品、医療機器、ロボットの関節部、半導体関連装置に使われる部品などでは、小さな部品であっても高い回転精度や耐久性、静粛性が求められます。ミニチュアベアリングもその一例です。小さな部品であっても、内径のわずかなばらつきが、振動や摩耗、動作のなめらかさに影響します。

このような小径・高精度の加工では、機械の剛性、砥石軸スピンドルの回転精度、振動の抑制、熱による変位への対応、加工条件の設定など、さまざまな要素が結果を左右します。どれか一つの技術だけで成立するものではなく、機械全体として精度を作り込む力が必要です。

セイコーインスツルの精機部は、この小径・高精度領域に長く向き合ってきました。単に機械を大きく、強くするのではなく、限られた空間の中に必要な機能を凝縮し、機械構造、高精度部品、高速回転スピンドル、制御システムなどを最適に組み合わせることで、安定した加工を実現してきました。

セイコーインスツルの強みは、機械全体をつくり込む総合力

画像2-2内面研削盤の精度を支えるうえで欠かせないのが、砥石を高速回転させる砥石軸スピンドルです。砥石軸スピンドルは、いわば内面研削盤の心臓部とも言える存在です。高速で回転する一方で、振動を極力抑えなければ、加工面の品質や寸法精度に影響が出てしまいます。

セイコーインスツルの強みは、この砥石軸スピンドルを含め、機械全体として精度を成立させる技術を積み重ねてきたことにあります。スピンドル単体の性能だけでなく、機械構造、高精度部品、高速回転スピンドル、制御システム、熱安定性、加工条件までを一体で考え、最適な状態に作り込んでいきます。

また、セイコーインスツルは営業、設計、調達、製造、組立、アフターサービスまで、ものづくりの一連の工程に関わっています。お客様からの要望や現場で起きている課題を受け止め、それを設計や製造、加工条件の改善へつなげられることは、大きな強みです。

単に内面研削盤を販売するだけでなく、「このワークを加工したい」「この精度をより良くしたい」「既存設備を改造して使い続けたい」といったお客様ごとの課題に対して、部門内で連携しながら対応できる。こうした小回りの良さと現場対応力で、お客様に価値を提供しています。

顧客課題に向き合う現場力

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内面研削盤の仕事は、機械を納めて終わりではありません。実際の生産現場では、ワークの材質や形状、加工条件、使用環境などによって、さまざまな課題が発生します。「思うように精度が出ない」「加工面が安定しない」「原因がすぐには分からない」。そうした場面では、機械の構造や加工の原理だけでなく、現場で起きている事象を丁寧に見極める力が求められます。

セイコーインスツルでは、お客様の困りごとに対して、営業、技術、製造、サービスが連携しながら原因を考え、解決策を探っていきます。時にはお客様の現場で機械の状態を確認し、加工条件や部品の状態、直近の作業履歴などを一つひとつ確認しながら、問題の本質に近づいていきます。

このような仕事には、図面や数値だけでは表しきれない経験や勘どころも必要です。長年の実績の中で蓄積してきたノウハウを、現場で生かし、次の改善へつなげていく。その積み重ねが、お客様の生産を支え、信頼につながっています。

お客様が実現したい加工や品質に寄り添い、ともに課題を解決していく。その姿勢こそが、セイコーインスツルならではの現場力であり、内面研削盤を通じて提供している価値です。

広がる用途と、これからの可能性

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これからの社会では、さらに小型で高性能な部品への要求が高まっていきます。EVをはじめとする電動化の進展、AI向けデータセンターの拡大、半導体製造装置の高精度化、医療機器やロボット、ウェアラブル端末など、新しい分野では小さく精密な部品がますます重要になります。

こうした分野では、単に部品を小さくするだけではなく、低騒音、省エネルギー、長寿命、高信頼性といった価値が求められます。その実現には、回転や摺動(しゅうどう)を支える部品の内面の高精度化が欠かせません。内側の精度が高まることで、摩擦や振動が抑えられ、製品全体の性能や寿命、エネルギー効率の向上につながります。

内面研削盤は、完成品の表に出る技術ではありません。しかし、社会を支える多くの製品の中で、その性能を内側から支えています。目立たないけれど、なくてはならない。そうした精密加工技術こそ、これからのものづくりを支える基盤になるはずです。

セイコーインスツルの精機部は、これまで培ってきた小径・高精度加工の技術、砥石軸スピンドルを含む機械全体の最適化、そしてお客様の課題に向き合う現場力を生かし、これからも新しいニーズに応えていきます。

「内側」を磨くことは、未来を支えること

内面研削盤が磨いているのは、部品の穴の内側です。しかし、その先にあるのは、静かに回る製品、なめらかに動く装置、長く安心して使えるものづくりです。

見えないところの精度が、製品の価値を決める。小さな内側の加工が、社会の大きな信頼を支える。セイコーインスツルの内面研削盤は、そんな「見えない精密」をつくり続けています。

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取材協力
精密デバイス事業部 精機部の皆さん